elm200 の日記

旧ブログ「elm200 の日記(http://d.hatena.ne.jp/elm200)」

ネット炎上の研究

今は知る人も少ないかもしれないが、かつては私はもっと頻繁にブログを書いていた。2006年から2011年ころまでの話だ。当時は、綺羅星のごとく面白いブロガーたちがいて、日夜、素晴らしいブログエントリーを読者に楽しませていた。やがて、一人二人と消えていき、いまはブログ界にかつての華やかさはもうない。

私もまた他の多くのブロガーたちと同じく、ブログを更新しなくなっていった。

どうしてそんなことが起こったのだろうか?

一つ、考えられるのはネットの炎上である。どんなに真摯にブログを書いたとしても、話題によっては、それに批判的な人たちが多数集まり、ブログの内容を十分に吟味せず(ひどい場合は一行も読まず)執拗に攻撃的な言葉遣いで批判を繰り返す。そこに生産的な議論など何もない。それにウンザリしたブロガーたちが、新しい文章を書き起こすのに億劫になっていったのは想像に難くない。実際、私がブログから遠ざかったのもそこに理由があった気がする。

なぜネットで炎上が起こるのか。そこで「ネット炎上の研究」という本を読んでみた。その感想をつらつらと書いてみたい。

ネット炎上の研究

ネット炎上の研究

これはジャーナリスティックな本ではない。著者は大学教員たちで、文体は論文に近い。著者たちの専門が計量経済学ということもあり、大規模なアンケートなど統計的に処理して定量的な評価を与えており、その客観的姿勢には好感が持てる。

本書では、幾多の炎上案件をいくつかの類型に分類し詳細に比較検討している。そうした炎上事件が起きていく過程で2000年代前半に信じられた「明るく自由なインターネット」の希望がしぼんでいく。それにつれて、人々の真摯な情報発信もまた萎縮していった。

中心にあるのは「相手に直接攻撃を加えるほどのネット炎上加担者は極めて少数」という主張だ。炎上に参加するのは、ネット参加者の0.5%にすぎないという。しかも、特定の人たちのみが繰り返し炎上に参加している。体感でいえば、私も確かにそんなものだろうなと感じる。ちょっと意外なのは、炎上に参加する人たちの中心的な属性は「年収が高く、ソーシャルメディアをよく利用する子持ちの男性」が多いとのこと。従来は「低学歴・低所得な人たちが生活の鬱憤を晴らすために炎上に参加している」と信じられてきた。しかし、どうもそうではないらしい。著者は、「子供を守るため、特定の価値観に固執した結果、炎上的な批判に加担するのではないか?」という仮説を立てているが、私にはよくわからない。

ただ、炎上参加者のうち、さらに攻撃対象に直接的な攻撃(直接メールを送り付ける等)を行う人たちはさらに限定的らしい(炎上参加者(0.5%)の数パーセント)。著者によれば、こうした人たちは「コミュニケーション能力に難のある人たち」であるという。社会には昔から必ず一定数のコミュニケーションに問題を抱えた人たちがいて、そういう人たちに「発見されてしまった」ことが原因だという。

結局のところ、インターネットのどういう性質が炎上を引き起こす根本原因なのだろうか?著者は、「情報発信力の過剰」にそれを見る。インターネットは学術的な情報交換からスタートしたために、すべての参加者が等しい発信力を持つ。その結果、優良なコンテンツを発信し続ける有名人たちも、それを執拗に攻撃する匿名の炎上参加者も同じ情報発信力を持つことになった。それは不都合なのではないか?という主張だ。

そのため、著者は「発信できるのは限定された人たちだが、閲覧は誰でもできる」という半開放のサロンを提案している。批判を行う人たちはそのサロンそのものには書き込めない。もちろん、ツイッターなどで批判を行うことは可能だが、それはあくまでもサロンの外部である。

私は「情報発信力の過剰」がネット炎上につながる、という考えは持ったことがなかったので、新鮮に感じた。確かに、そうかもしれない。本当なら、発言力が、その人のネット世界への貢献度に比例していれば、インターネットにより多くの優良コンテンツが供給されるのかもしれない。

さてここからは、私がこの本を読んで次に何をするのか?という点だ。炎上を起こしている人たちが本当に少数であるならば、情報発信を恐れる理由はないはずである。ネット上の誰かから攻撃を受けたとしても、他の大多数は自分に関心がないか、あるいはむしろ好意的である、と考えることができる。(ごくまれに大規模な事故が起こり、不幸なことになることもあるが、それはもう交通事故のようなものであろう・・・)

ということで、私はこれからは少し勇気をもってネット発信の機会を増やしていきたい。ネット上には実にさまざまな人たちがいて、情報発信を行うことで、自分の視野を広げてくれるような、興味深い人たちに出会える可能性があるからだ。

情報発信の一つの形として、私は最近、毎週土曜日、友人たちと「ラジオ」と称して、Youtubeライブ配信を行っている。さまざまな時事や人生の話題について、友人たちと楽しいトークを繰り広げている。まだ試験的運用なので、ライブ配信結果は限定公開としているが、土曜日の午前10時ころまでには私の Twitter アカウント で配信URLをお知らせするので、もしご興味があればどうぞ。