elm200 の日記

旧ブログ「elm200 の日記(http://d.hatena.ne.jp/elm200)」

常温核融合あるいはLENR、その不都合な真実について

常温核融合あるいはLENR(低エネルギー核反応)から受けた衝撃がまだ私の中でこだましている。

  • 常温あるいは高々数百度で反応
  • 中性子放射線をほとんど出さずクリーン
  • ゆっくり熱を出し、暴走・爆発の危険が非常に低い
  • 耐久性もすでにある程度あり、メンテナンス性も高い
  • ごくわずかな燃料(重水素など)に対して膨大なエネルギーが取り出せる

これが本当なら、すごい。しかし、本当に本当なのだろうか?

話がうますぎる。エネルギー開発をめぐる詐欺というのはいままで無数にあった。そういう詐欺師たちの宣伝文句とそっくりではないか。

再現性が低いことがさらに詐欺っぽさを引き立てる。実際、1989年に始まった最初の常温核融合の成功発表後の興奮と、追試失敗の落胆のギャップがあまりに大きくて、多くの人たちはこの騒ぎ全体がインチキだと信じるようになってしまった。

ただ、実際にはその後も一部の科学者によって研究は続けられて、単なる計測ミスなどでは説明がつかないほどの余剰熱や核変換の証拠が積みあがっている。理論上も、低エネルギーで水素原子同士の融合が起こるメカニズムとして量子トンネリングを起こりやすくする仕組みがいろいろ提案されている。産業的応用については Grok にまとめてもらった。


  • ENG8: EnergiCells(100kW出力)の商用展開を2026年に予定。2025年は安定運転のデモで、産業熱やEV充電に適用。既存サプライチェーン活用で低コスト。

  • HYLENR (インド): 9月、Jeff Tolnar氏を理事に招聘し、商業化を強化。コンパクトな無放射線熱エネルギー炉を開発、11月のWorld Nuclear Exhibitionで展示。Inc42の「注目スタートアップ」に選出。

  • Clean Planet (日本): 三菱、日産、トヨタの支援でMiuraと協力。8月、元環境大臣のTokutaro Nakai氏をアドバイザーに任命。ナノ材料熱生成でEU資金申請。

  • Prometheus (イタリア): UMリアクターを発表、家庭用CO2フリー加熱装置としてガスシステム代替。

  • その他: Brilliant Light Powerの338kW出力報告、Maximus Energyのバブル融合再現試み、BIACOのウェブ再開。


上でも特に ENG8 は、なんと来年(2026年)、実際にEnergiCellsという100kW級の発電装置を実際に売り始めるのだという。もし本当に設置が始まるのなら、実際にどの程度うまく行ったのかを多くの人たちが観察することができるだろう。

英国の高級紙 Guardian も、LENRを支持する科学者と懐疑的な科学者の二人の意見を対比させ、完全な否定から、慎重な再検討に移行しつつある主流の学者たちの考えを紹介している。

www.theguardian.com

Grokと話して確信したのだが、確かに LENR の期が熟しつつある可能性がある。LENRは電極のナノスケールの微細構造が重要だったのだが、1989年には、これらを観察する技術も加工する技術も共に未熟だった。しかし、その後の半導体製造における微細化競争によって、これらの技術が大きく成長した。2025年の今日では以前より遥かにナノ構造をうまく取り扱えるようになった。それによってLENRの再現性も上がり、理論の検証もしやすくなるだろう。

しかしLENRが本当に実現してしまうと、火力発電・核分裂炉・高温核融合炉だけでなく、風力発電太陽光発電などの再生可能エネルギーや蓄電池といった私が従来、熱烈に応援していた技術さえ、色あせてしまう。これは、正直、私にとっては胸が苦しい。

確かに現時点では、まだ海のものとも山のものともつかないLENRが実現する前提の計画を立てるべきではない。計画から運用開始までの期間が短くてすむ再エネをどんどん増やしていくべきだし、系統用の蓄電池も積極的に設置していくべきだ。だが、どこかの時点(10年後?20年後?)にひょっとしたらLENRが世界に急速に普及して他の電源を圧倒していく可能性も否定できない。いまとは全く別の形の文明が展開されていくかもしれない。この可能性を認めるのは、大幅な価値観の転換を伴うので正直、私にはつらいけれども、心のどこかに留めつつ、今後の展開を見守っていくつもりだ。自分の読みが外れたのならそれを認めて、方向転換する勇気を持つべきだとおもうからだ。