私は相変わらずこの世の中で何をなすべきかわからないまま、日々を過ごしている。
私は大学こそ東大という日本で一番有名な大学を出たものの、結局、この世の中で名を遺すような何かを成し遂げることはできなかったように思う。まあ、ほとんどの人間はそんなものなのだろうし、特に恥じるようなことでもないのかもしれない。人生の最初の20年くらいの期待値が高すぎたということなんだろう。そんな私の思うことをここに書いたところでどんな価値があるのかもよくわからないが、私は自分の気持ちをここに素直に書いていこうと思う。それはもちろんこの世の私にしかできないことだからだ。私のような人生をたどって、現在55歳になった日本人男性がどういう思いを抱いて生きているのか、興味を持つ人もいるかもしれないし、ひょっとしたら何らかの参考になるかもしれないからだ(そんなことは一見なさそうに思えるが、インターネットは広大であり、ニッチな需要はいろいろあるので……)。
考えてみるとITエンジニアとして30年近く断続的に仕事をしてきたが、その専門知識もたいしたものではない。まったくの初心者にむけては多少語ることはできるかもしれないが、大学でみっちりソフトウェア工学を学んだ人たちにはとてもかなわない。ソフトウェア開発の実務でも私はプロジェクトマネジャーようなリーダーを務めたことがないから、そういう方向からも偉そうでかっこいいことを言うことができない。私はおそらく性格的にもあまり向いていないと思われたのか、そういう仕事をやってくれと頼まれたことはなかったし、実際、私自身も積極的に興味を持ったこともなかった(楽しそうに見えなくもないが、責任が重すぎて、私に務まりそうもなかった)。というわけで、実に約30年間(途中、ちょくちょくブランクはあるが)生活するためにやってきた仕事についても、これといったことを語ることができないのである。
私は受託開発の仕事に携わることが多かった。日本でITの仕事といえばこれが一番多いのである。私の印象では、日本は従来の重厚長大型の大企業が圧倒的に経済を支配していて、これらのシステムは直接間接にこうした企業群を支えるものが多かった。しかし、日本企業はITの使い方がうまくないので、私が携わったシステムが大きなビジネス上のインパクトをもたらしていたかというとかなり疑問だった。私は所詮、現場の一開発者にすぎなかったので、本当のところはよくわからない。しかし、主観的にはそう感じることが多かったので、そういう意味ではやりがいを感じることは少なかった。ただカネだけは平均以上に稼ぐことができたと思う。
実は、この10年間、集中的に働いて、その収入の多くを投資に回し、それがうまくいったおかげで、いまは「カネを稼ぐために働く」必要がない状態になってしまった(「しまった」と書くのはいまだにその状態にうまく適応しているとはいえないからである)。ITの仕事が自分にとって天職とは思えないが、それでも自分にとって経済的な価値を生むことのできる唯一の仕事ではある。仮にこれを再びやるとするなら、たとえば欧米向けの仕事を請けて、日本では稼げなかったくらいの大きな金額を稼ぐ、ということはトライしてみてもよいのかもしれない。ただ、カネには困っていない以上、そこまで一生懸命やるだけの価値があるのかはよくわからない(日本人に向けて「こういう選択肢もありうるよ」という人柱になる意味では価値があるかもしれないが)。
多くの人たちはカネのために仕事をしている。もちろん、仕事はカネだけではなく、やりがいや人間関係という副次的なものをもたらしてくれる(そうでないこともあるが)。もしカネだけが目的なら投資で稼ぐという手もある。私は金融投資では、いまのところある程度成功していると言えるのだろう。そのノウハウを公開してもよいのかもしれない。ただ、私のやったことはごくごくオーソドックスなもので、そこら中にすでに情報が転がっているし、何も特別なことではない。あえて言えば、「相場に対する心構え」的なものに独自性があるかもしれないが、これも私の個性に最適化されすぎていて、一般化できるのかよくわからない。
こんな感じで私はなるべく自分を飾らずに自分の率直な気持ちを吐露する文章を書いていこうと思う。若い人たちにとっては、自分より年上の人たちが何を感じて生きているのか、よくわからないこともあるだろう。私の例は一つのサンプルにすぎないが、55歳の男はこんなことを考えているよ、と一つの参考にしていただければ幸いである。