ここ数日ずっとAIによる技術的失業とベーシックインカム(BI)について書いている。
Taxation on robots? Challenges for tax policy in the era of automationという論文を読んでみた。Geminiのおすすめで、ロボット税に関しては学術的議論の出発点になるらしい。ロボット税の提案を多角的に分析し、ロボット税の定義、経済への影響、競争力への影響といった具体的な課題を詳細に検討している。
これをとりあえず NotebookLM に入れて、要約してもらった。ロボット税自体にもいろいろ議論があり、「技術革新を阻害するから良くない」という意見も当然ある。とりあえずここではロボット税の是非自体は考えないことにして、実際の徴収方法について考えてみよう。以下に NotebookLMがしてくれた要約を示す。
ロボット課税の選択肢はいくつか提案されています。
■ロボット自体への直接課税: ビル・ゲイツ氏の提案のように、ロボットが生成する所得に人間と同じように課税するという考え方です。これにより、ロボットに「税務上の人格」を付与する可能性が議論されます。しかし、現状ではロボットが財産権を行使したり、自ら税金を支払ったりすることは困難です。
■ロボットの使用に対する課税: ロボットをビジネスで利用して利益を得ている企業に対して課税する方法です。置き換えられた人間の労働者の仮想賃金に基づいて税額を計算する案や、自動化によって生み出された所得に課税する案があります。しかし、ロボットがタスクの一部を引き継ぐ場合や、人間とロボットが協働する場合に、正確な置き換えや利益貢献を測定するのは非常に困難です。また、「利益対従業員数」の比率が高い企業に課税することも考えられます。
■法人税率の引き上げまたは課徴金: ロボットを利用する企業に対して法人税率を引き上げる、あるいは法人税に課徴金を課す方法です。これにより、労働集約型の企業に不利益を与えず、国内投資を阻害しないよう、課税対象を「ロボットを利用する企業」に限定するなどの設計が必要です。
■一律課税(Lump-sum tax): ロボットを使用するすべての企業に、その状況に関わらず一律の金額を課税する方法です。経済的歪みを最小限に抑える利点がありますが、納税者の特定の経済状況を考慮しないため、不公平で不人気になる可能性があります。
■高技能労働者への課税: 自動化によって恩恵を受ける高技能労働者(プログラマー、エンジニアなど)の所得に、累進課税率で個人的に課税する方法です。これは、新しい技術エリートが社会的な貢献をするべきだという考えに基づいています。
■税額控除の不認可: ロボットの取得や利用に関連する法人税の控除を制限または廃止する方法です。現在の税制は、人件費の控除と資本投資の減価償却費の控除のタイミングが異なるため、ロボットの導入を優遇する傾向があります。この不均衡を是正することで、ロボットと人間による労働の税務上の「中立性」を高めることを目指します。
基本的には、法人の利益に対して課税する形が多い。他にもいろいろアイディアはあるだろうが、企業が納得いく課税対象を見つけるのは容易ではなさそうである。ただでさえ、増税は嫌がられるのに、この件に関しては課税の方法自体に自明な方法がなく、大いに揉めそうである。
これはS&P 500の過去約20年分のチャートである。これを見ると1995年~2010年くらいのレンジ相場と2010年以降の右肩上がりの期間に分かれることがわかる。AIに尋ねると1995年~2010年がレンジ相場になったのは、2000年と2008年に2度のバブル崩壊(ドットコムバブル・リーマンショック)があったからだというのだが、ちょっと腑に落ちない。2010年以降にもいろいろ下げ相場はあったと思う。特に2020年のコロナショックは大きな衝撃だった。何度か大きく下げることはあったが、すぐ復活するのである。
2010年以降は、それ以前とは相場に何か構造的な違いがあるのではないか。考えられる一つの可能性は、インデックスファンドの普及である。インデックスファンドには個人や機関投資家から定期的に大量の買いが入る。そのためS&P500のようなインデックスは上昇しやすくなる。しかし、最大の理由はAmazon、Apple、Google(Alphabet)、Microsoftなどのビッグ・テックの存在ではないだろうか。
これらのビッグ・テックはITを使って次々と新しいビジネスを開拓して巨大な収益を上げた。しかし、これらの企業の成長には負の側面もあった。既存ビジネスを破壊して、その利益を吸収した部分があったからだ。たとえばアマゾンは既存の書店の売上を減らした。Apple や Google はスマートフォンのOSやハードウェアを提供して、電子通販ビジネスを大衆化した。その結果、多くのリアルな商業施設は売上を落とした。
つまり、これから予期されるAIによる技術的失業に似たものは、すでにITによる既存ビジネスの破壊という形で15年くらい前にはすでに始まっていたのではないだろうか。
ロボット税を「自動化によって雇用を減らし利益を増やした企業に対して課される税」と定義するならば、実は15年前から、これらビック・テックにロボット税を課税すべきだったのではないか。しかし、現実にはそれは課税されず、代わりに利益の一部として計上された。こうした巨額な利益を背景に、株価は上昇しつづけ、これらの企業の株式を保有する人たちに巨額の利益をもたらした(創業者たちは保有する自社株によって世界的億万長者になった)。
こうしたビッグ・テックの利益の一部は本来は政府によって徴収され、国民に全体にベーシックインカムとして支給されるべきものだったのかもしれない。そういう意味では、投資家たちへの配当やキャピタルゲインは、ある意味で自分で自分へBIを支給している「セルフBI」のようなものと言ってもよいのかもしれない。
こうした株式投資の利益を原資に早期退職する人たちも出てきた。いわゆるFIREムーブメントである。彼らはカネの制約に縛られず自分の思うままに生きる。その姿は確かにBIが実現した後の人たちの生き方に似ている。
私が言いたいのはこういうことである。本来ならば、こうしたビック・テックにロボット税を課税して、ベーシックインカムを実現し、ITやAIによる技術的失業に備えるべきである。しかしこれは政治的に極めて厳しい道のりである。大企業は優秀な会計士や弁護士を多数抱えている。彼らはあらゆる方法で課税を逃れ、資金提供と引き換えに政治に大きな圧力をかけるだろう。仮にロボット税が課税できたとしても、今度は国境の壁が立ちふさがる。例えば米国は、ビック・テックにロボット税を課税できるかもしれないが、日本も同じように課税できるだろうか?AIやロボットを所有しているのがすべて外国に住む外国人だったら、本当に日本で彼らに課税できるのだろうか?
いずれにしろロボット税もBIも簡単には実現しそうもない。たぶん、AIによる技術的失業は究極まで進み、ほとんどの人たちは失業してしまうだろうから、BIが実現しないと社会不安が極限まで高まってしまう。大げさに言えば「BIを実現するか、人類が滅ぶか」という状況に追い込まれるだろうと思う。そこで初めて政治状況が変わり、企業もロボット税を受け入れ、BIが実現するのかもしれない。
しかし、そこまでの道のりにおける過渡期は極めて危険なものになりうる。だから、私はなるべく各人が資産形成を行っておくべきだと思う。いつまでも労働収入が存在すると思わない方がいいのではないか。まずは株式等で資産形成して、その資本所得を通じて、自分で自分に支給する「セルフBI」を持つべきだろうと私は考えている。